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忘れられない…


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「スキャンダルでの脚光なんていやだけど」
「今夜のお客さんはまだ私を知ったばかり」




新聞に出たヘドウィグに関する記事が舞台の後ろに現れる
WHO IS A MYSTERY WOMAN

「偶然だけど、そばのジャイアンツスタジアムで彼、公演中なの」
そう言って、扉を開けに行くヘドウィグ。
歓声と溢れてくる光。
それはトップスター「トミー・ノーシス」から射して来る成功という名の。

「あの曲!!全部書いたの私!!」
「彼はロックの魂なんか忘れちまったけど」
聞こえてくるトミーの言葉に思わず耳を傾けてしまう様子がいじらしくて。
でもそれは彼女に向かってじゃなく。
諦めて扉を閉め、タバコに火を点ける。
ふ~っと煙を吐き出す仕草がちょっと色っぽい。

壁を纏って舞台に登場してから「打ち壊せ!」と挑発的に歌う1曲目とは打って変わり。
『愛の起源』を歌う前後のヘドウィグのモノローグはちょっと切ない。
「思えば、今夜のステージまでにたくさんの人が私にさわっていったわ」
「1番さわったのは誰?アメリカのGIだった父さん?東ドイツ人の母親?」

見付けた2歳から6歳までの絵日記。
一緒にベッドで眠る母子の絵は身体がふたつの反対を向いた「く」の字に描かれていて。
「一緒に寝ててもちっともピッタリじゃない」と。
そんな頃、幼い息子に母が語って聞かせた『愛の起源』の物語。

★『THE ORIGIN OF LOVE』
優しい声のイントロから変調して
「And then fire shot down from the sky in bolts like shining blades of a knife.」と歌う時の、空を見上げるような仕草。
「And lokking through one eye.」の一つだけの目を表す仕草が好き。
そのあとの語り掛けるような歌声。
「昔々の冷たく暗い夜のこと、天の支配者によって人は寂しい2本足の生き物に。 それは悲しい物語 愛の起源の物語。 こうして愛はうまれたよ。」
                             ~CDの訳詩~

そして6歳のハンセルは神の稲妻によって切り離されたカタワレ探しを始めることになる。

母親が「手足の無い子供達に彫刻を教える仕事」をしている間、米軍ラジオを聞いてアメリカの偉大な音楽に心奪われる小さなハンセル。
狭いアパート、そしてラジオとハンセルはオーブンの中に移動。
黒人の女性コーラスに合わせてハーモニー。
イツァークの声とヘドウィグのハモリがキレイ!
トマトに見立てた赤いボールを投げつけられるヘドウィグ。
大阪のマチネでは、うまく受け止められずに舞台の下まで転がったボールを取りに降りてきました♪


「26歳で大学を追われ、まだキスもしたことがなく、夜はママと寝てた」
東ベルリンでのカタワレ探しに望みを失いかけていたハンセルは自由な西側に憧れて、でも渡る手段も無く途方にくれて日々を過ごしていた。
「だってどうやってあっちに渡るの?みんな死んでる」

そんなある日、壁のそばの教会の破片の上で日光浴。
西側の風の匂いを嗅いでた。
「だってすぐそばにマックがオープンしてね」
「でもハッピーセットなんて冗談じゃないわ。私はいつもアンハッピーセットだっていうのに」
笑って冗談めかして話すヘドウィグが健気で。

そこで出会ったアメリカ兵ルーサーがくれたのはカラフルな米国製のクマのグミ。
「いつも食べてる東ドイツ製のグミよりもっと甘くてぷにぷにしてて歯にぺたっとくっ付く感じ」
「これは何の味?」
「突然分かったの!これは権力の味」
ルーサーの顔に溢れる欲の色とグミベアのとろけるような味。
ハンセルの頭の中でガス室送りになったユダヤ人たちの呻き声が透明な袋からのぞくクマのグミたちのカラフルな顔と重なり合い、苦しげな息遣いまで聞こえてきそうで。
恐ろしくなったハンセルは足をもつれさせながら逃げ出す。
点々とレインボーカラーの死体のあとを残して。
残酷で忌まわしい歴史の不気味な声が背後から吹き出してきそう。

翌日そのレインボーカラーのあとを辿ってみると途中からお菓子が増えて、最後に見付けたのはルーサーという特大サイズのシュガーダディだった。

★『SUGAR DADDY』
明るいポップな曲調。
ばら撒いたグミをひとつ摘まんで高くほおり投げ、パクリ!
喉詰めないかな~と余計な心配。
でも上手に食べるヘドウィグ。
セクシーなダンスとキュートな表情。この曲大好き!
会場中、手拍子と揺れるみんなの身体、元気いっぱい♪
歌い終わったあと、ブーツでグミを踏んづけ「踏んじゃったわ」と困り顔のヘドウィグがお茶目で可愛い。


結婚、そしてアメリカに渡ると嬉し気に報告するハンセルに、中村イツァークがルーサーとハンセルの母親に交互になって誘惑する。
「そんな簡単な事じゃないんだ」
「どこかへ行くためには、一つ何かを置いていかなくちゃいけないの。わかるわね?」と…
仕方なく受けた性転換手術、が失敗。
残ったのは「目のない顔をしかめたような」小さな傷痕、それが怒りの1インチ。

★『ANGRY INCH』
ヘドウィグの激しい歌声の合間に入るイツァークの高音。
そして手術の経緯を「Long story short」とぶちまけてしまう。
ここの英語の語りが凄くカッコイイ!


自由の国アメリカに渡った二人。
カンザス洲ジャンクションシティのトレーラーハウス。
でもヘドウィグは、
「一人ぼっちで違法に繋いだケーブルテレビで壁が壊されるのを見てた」
「なんだか無性に声が聞きたくなって母親に電話しようとしたけど、彼女このまえ太陽さんさんのユーゴスラビアに逃げ出したばっかりだった」

部屋の向こうには開けてない結婚記念日のプレゼント。
「泣いたわ私。だって泣いてないと笑っちゃうから」

キーボードのソロ、静かなイントロに合わせて。
★『WIG IN A BOX』
「世の中がちょっと上手くいかない こんな夜には トレーラー村の明かりも消えていく 独りぼっち だまされて 今にも頭がおかしくなりそう でもタイム・カードを押さなくちゃ」
「メイクして ミュージック・テープをかけて カツラをかぶる すると私はミス・中西部 真夜中のレジの女王 家に帰って ベッドに潜るまでは」 ~CD訳詞~

ヘドウィグの生きざまそのままに、ピュアでキュートな曲。
シャボン玉を吹くイツァーク。
ヘドウィグは歌いながら掴もうと手を伸ばす、その仕草。
ふわふわ漂うシャボン玉を見上げる表情がなんてかわいいんだろう。
同じく歌いながら、椅子に座ったヘドウィグに化粧をしてあげるイツァーク。
まるでままごとのようで、やっぱりなんだか可愛い二人。


「毛皮は好き」
イツァークに裾の長い茶色の毛皮を着せてもらうヘドウィグ。
「ここに来る途中で○○に言われたの」
「あんたが着ているその毛むくじゃらの生き物は何ていう名前だい?」お爺さんみたいな声!
ヘドウィグは澄まして
「叔母のトルーディよ!」
投げ付けられた赤いペンキがべったりついてる後ろ姿を披露する。
「なかなかいいアクセントになってるでしょ?」 常にポジティブ。ちょっと哀しいけど…


ヘドウィグはすぐそばのジャイアンツスタジアムで「罪滅ぼしツアー」という名のライブを続けているトミーの事を忘れることはない。
何度もそちらの扉を開けに行っては聞こえてくるトミーの声に心を揺さぶられ、苦しそうに叫ぶ。
「トミー聞こえるか~!あんたはこのオッパイの出ない乳首からショーという名のビジネスを吸い取ったのよ!!」
泣きそうに歪んだ顔。
「分かったわ。トミーの事を聞きたいんでしょ」と話し出す。

ルーサーに捨てられてから色んな仕事を転々としてなんとかやってきたこと。
そして二人の出会い。
スペック将軍の子守りの仕事、赤ちゃんの兄が17才のトミーだったこと。
トミー・スペックは、ダンジョン・ドラゴンのゲームマニアでジーザスフリークで魚が好き。
「私にはとんでもなくHOTな馬鹿だった」


「昔好きだったロックへの情熱が再び湧いてきた私は、なんだかやる気が出てきて安いキーボードを買い、韓国人の軍曹の奥さんをリズム・セクションにして歌い始めたの」
「なんとも間の抜けたビートだったけど… 時には手に入るものだけでやらなくちゃね」

そして
「次の曲は私が初めて書いた曲。男が歌うための曲よ」

★『WICKED LITTLE TOWN(ヘドウィグバージョン』
「あなたを夢中にできるものはここには何もないから 他になにも出来ないのなら 私の声を追いかけてみて この薄汚れた街の 暗い曲がり角と喧騒の中」 
                              ~CD訳詞~

17歳のトミーはヘドウィグのライブを見に来ていてヘドウィグに興味を持ち、子守りの仕事に戻ったヘドウィグの元にギターを抱えてやってくる。
中村イツァークがサングラスを外してトミー少年に早変わり。
若々しい声で話し出す。17歳のピュアな夢。
アダムとイブになぞらえてトミーが語るのは愛に対する憧れ?
「彼の目は青いシリンダー、透明な水溜り…そこは虚ろで…私の目と同じ色」
ここの台詞が詩的でとても好きなのに、次々揺さぶられる感情に流されて覚えていられない! 誰か覚えていたら教えて下さいm(__)m

二人の楽しい音楽活動。
トミーの髪型を変え、歌詞とロックの魂を伝授するヘドウィグ。
オーブン発声法っていうのが可笑しい!
卒業祝いに贈ったのはステージネーム「トミー・ノーシス」
ノーシスとはギリシャ語で「知識」
トミーの額に銀の十字を書くヘドウィグ。

ヘドウィグに磨かれて凛々しく成長していくトミー。
ドクターエスプレッソの店でのライブも席は全て埋まり、知名度の上昇と共に収入もアップ、他の仕事を辞めたヘドウィグは順調な二人の音楽活動に幸せを噛み締めている。

そんなある日、父親と衝突して泣き付いて来たトミーを優しく受け止めるヘドウィグ。
マイクを抱き締める耕史くん。(本当に人が立っているように見えた)
いつも後ろから抱き締めてくるんだというトミーの頭を前から腕を後ろに回して優しく語り掛けるヘドウィグの表情がとても柔らかくて幸せそう。
「こういう時は、あの新曲の続きを考えなさい」
作曲をするトミー(少し離れて座ってるイツァークがギターを弾く)はいいフレーズが浮かばずちょっと苛ついている感じ。
「そこの○○フラットは試してみた?」とトミーの作曲にアドバイスするヘドウィグ、言われたとおり弾いてみて満足しているトミーはやっと落ち着いて。

微笑みながらそんな彼の眉を整えてあげるヘドウィグの手付きと表情が本当にもう、愛情いっぱいで優しくて切ない。
(一人芝居による耕史くんの細かな手の動き。抜いた毛をふっと吹く仕草、見詰める視線)


「ずいぶん長い事一緒にいたのに、まだキスもしたことなかった」と二人は…
しかし、トミーはヘドウィグの「ANGRY INCH」に初めて気付く。
動揺のあまり白々しい嘘を口にしてしまうトミー。
「意気地なし!臆病者! …愛してる?」
「愛してるなら、私の前の部分も愛して!」

まだ子供のトミーには受け止めかねた真実。
そしてヘドウィグに突き付けられた残酷な現実。

「彼、大慌てで逃げてったわ」
ヘドウィグの目から涙が頬を伝って。


別れと裏切りを経験した後、夜の町で偶然に会った二人。
そして起こった事故とスキャンダル。
「彼がカタワレだと思ったのに」
ヘドウィグの慟哭。

カツラを投げ捨て、泣き崩れるヘドウィグをイツァークが抱き起こして椅子に座らせ、優しく抱き締める。
背中を丸めた小さな子供のようなその姿。

★『THE LONG GRIFT』
何ともいえない不思議な退廃的な曲調。
バンド・アングリーインチの一人、大ちゃん(役名は忘れました)が歌います。とってもいい声!

カツラを取ったヘドウィグはぎらぎらメイクで目を伏せ、泣き顔も滑稽だからこそ余計に切ない。

★『HEDWIG’S LAMENT』
哀しく辛い、ヘドウィグの嘆き。
「手術台からよみがえったよ 心のかけらを失ってしまった 誰もがおもしろおかしく私を切り刻む かけらのひとつをママに もうひとつを夫に もうひとつはロック・スターにも 彼は心を奪って逃げてった」    ~CD訳詞~


★『EXQUISITE CORPSE』~美しい死体~
激しく鳴り響く、暴力的なサウンド。
飛び跳ね、髪を振り乱し、顔と身体を真っ赤にさせて歌うヘドウィグ。

そして不協和音!!

その音の洪水の中で、ヘドウィグは網タイツを引きむしり衣装を脱ぎ捨て頭を掻き毟りながらグルグル回ってふらふらと奥へ倒れ込む。

しばらく続いた不協和音が止むと、起き上がって舞台前の方にゆっくりと歩いてくる姿。
そこへトミーの声がどこからか聞こえてくる。
「謝りたい人がいるんだ」
「彼女はぼくに全てを教えてくれた」と。

舞台中央、前に出て来て立っている顔に、途中からスポットライトが当たり耕史くんの生の声がトミーの声に被さる。
目の前に立っているのはヘドウィグ?それとも…トミー。
ここはなんだか震えるほど気持ちいい!

耕史くんはメイクを落としほとんど素顔。
あの重たげなツケマツゲも細い眉もブルーのぎらぎらシャドーもなく、口紅が少し歪んで残ってて色っぽい。
額には銀の十字、そしてキラキラするラメが少々。

「この人こんなにキレイな顔だったんだ!」と毎回見る度に驚く。
耕史くんの顔は見慣れているはずなのに。
あのメイクのあとだから、余計に凛々しく美しく見える。


そしてトミーとして歌う
★『WICKED LITTLE TOWN』
「何も知らなかった 僕を許しておくれ 僕はほんの子供で 君はあまりにステキだった 神が考えうるどんな人間よりも 女とか、男以上に 今ならわかるよ 僕がどれだけ君から奪ってきたか 全てが壊れ始めたとき 君は落ちたかけらを拾い上げて この薄汚れた街に とても美しくて新しいものを示した」 
                               ~CD歌詞~

ヘドウィグの心に届く、トミーの本当の気持ち。
一緒にいるわけじゃないけど、話し合ったわけじゃないけど、元に戻れないけど。
トミーもヘドウィグを想いヘドウィグもまた…心は同じ。


ラストの曲
★『MIDNIGHT RADIO』
低い、静かな歌声。
はじめは伏せ気味だった目を上げてまっすぐに前を、遠くを見詰める表情。
徐々に大きくなる歌声と演奏。

ここでイツァークが何時の間にかドレスに着替えて客席から上がってくる。
細い身体、綺麗な背中。
エスコートするヘドウィグ。
耕史くんは自分の唇に残った口紅を指でぬぐい、一度客席に見せるようにかざすとイツァークにさしてあげる。

「Lift up hands!」の声に、イツァークがゆっくりと腕を上げ。
客席に呼びかけるようなヘドウィグの目に、一斉に上がる手。
拳、揺れる腕。
会場が一体になった、そんな確信に上がる声と拍手!!


ラスト、どこからか聞こえてくる歓声。
真っ暗な舞台上で一人佇むその人の顔だけをライトが照らし出し…ふっと消える。
横を向いたその表情がなんともいえなくて…忘れられない。

一瞬の間、そして拍手と喝采!



数回の観劇による記憶と映画のDVD、CDの歌詞を参考に書きましたので、記憶違いや場面の前後など間違ってる部分がたくさんあると思います。
そして、あくまで私自身の主観による文章ですので、ひとそれぞれ感じ方の違いもありますこと、ご了承ください。

by aquadrops | 2007-04-12 13:24 | Stage